村上春樹『はじめての文学 村上春樹』

村上春樹『はじめての文学 村上春樹文藝春秋、2006年12月
若い人のための短編小説集として編まれた。「カンガルー日和」や「かえるくん、東京を救う」、そしてかなり印象深い作品である「沈黙」などが収められている。
本書に収められている短編は、「恐怖」や「夢」といった村上春樹作品に特有のテーマを扱ったものが多い。そんな中で、ある一人の男の孤独をリアルに描いた「沈黙」は異色である。村上春樹にしては、やや教訓的なストーリーかもしれない。

 でも、僕が本当に怖いと思うのは青木のような人間の言いぶんを無批判に受け入れて、うのみにする連中です。自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、受け入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。(p.218

こうした大衆批判は、たしかにその通りである。私自身も、普段から考えていることでもあるからだ。そして、この物語が、「自分で考える」ことができる生徒を育てる教育の世界で、受け入れられやすいのも納得できる。教師としては、集団に流されない「私」になろう、というメッセージを送ることができる。学校的倫理を非常に上手に表している物語だ。
とは言うものの、やはり、この物語は村上春樹作品の中でも傑作といえる作品だと思う。

はじめての文学 村上春樹

はじめての文学 村上春樹