酒井邦嘉『言語の脳科学』

酒井邦嘉『言語の脳科学 脳はどのようにことばを生みだすか』中公新書、2002年7月
おもしろい。文系、理系の枠を越えたいわゆる学際的な研究テーマ。人間が言語をどうやって獲得するのか。興味深い問題である。
本書は、「言語がサイエンスの対象であることを明らかにしたい」と冒頭で宣言される。著者曰く、「言語に規則があるのは、人間が規則的に言語を作ったためではなく、言語が自然法則に従っているため」だ。チョムスキーは「人間に特有な言語能力は、脳の生得的な性質に由来する」と半世紀にわたって唱え続けているという。この生得説を脳科学が実証しようではないか、というわけなのだ。
まだまだ、言語の脳科学は始まったばかり。本書では、さまざまな言語の脳科学の研究が紹介されているが、依然として多くの未解決な問題が残っていそうだ。未知の問題が残っている研究分野を知るとわくわくする。この先、どんな展開をするのか楽しみだ。
本書の「おわりに」のなかで、著者は「文系だから、逸話的な記述に専念して、科学的な厳密性や再現性を欠いていてもよいということにはならない。また、文系の研究者が、脳機能の計測法などの科学的手段を用いてはならないという不文律もない。それにもかかわらず、研究費や研究スペース、研究スタッフの数といった研究の必要条件のすべてが、文系の研究室には不足している」(p.326-327)と記している。まったくそのとおりだと思う。文系だからといって、文献だけに閉じこもってはいけないなあと。科学的な研究手段も身につけるべきだし、教育していく必要もあるのだろう。