太田光・中沢新一『憲法九条を世界遺産に』

太田光中沢新一憲法九条を世界遺産に』集英社新書、2006年8月
日本の歴史や社会・経済などを学生に教える授業をしているので、何かネタはないかと読んでみたが、期待はずれ。笑いについて語っているのに、笑えないのはたしかに芸がない。
愛には毒がある、といったことが語られているけれど、本書自体には毒がないのだ。口当たりのよい言葉が続く。憲法九条を世界遺産にと言いつつも、そう唱える自分も疑わないととか、日本国憲法は矛盾しているから良いのだといった、ポストモダン的な考え方が目立つ。いかにも現代思想で語られていそうな言説を薄めたといった印象だ。こういう考え方を否定する気はないのだが、目新しさがないのが不満。このあたりの考えで止まってしまうのが中沢新一の限界なのか。
正義を唱える自分自身を疑う、二項対立ですっきり分けるのではなく矛盾を矛盾のままに受け止める、などといった言説は当然すぎて、それよりむしろ、これらを踏まえた上でどう考えるのかといった一歩先の思想が、そろそろ登場してきてもいいのになあと思う。

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)

憲法九条を世界遺産に (集英社新書)