橋本治『乱世を生きる』

橋本治『乱世を生きる 市場原理は嘘かもしれない』集英社新書、2005年11月
冒頭の「はじめに」で書かれていることは、けっこう共感できることが多い。
たとえば、今の日本社会でおかしいと思うのは、「勝ち組・負け組」という二分法の考え方が現れたこととか、勝ち組とか負け組とか本当はどうでもいいことなんだけど、社会に向かって何か物を言おうとするなら、たちまち「負け組の欲求不満」と位置づけられてしまい、一旦「負け組のひがみ」と位置づけられると、「なにを言っても"負け組のお前の言うことには意味がない"とジャッジされかねないところ」からスタートしなければならないこととか、「勝ち組・負け組」という考え方は「思考の平等」を侵しているといった点などだ。
しかしながら、本文はやや期待外れだった。要するに、「勝ち組・負け組」といった考え方の登場は、バブルがはじけて、人々が頼るべき指針を失い不安になったために、結果的に「勝ち組」の人を担ぎ出して、その人たちに自分たちを引っぱっていってもらおうとしているからだというのだ。こうした考え方は、割と一般的なものかなと。経済の話もいまいちだった。
橋本治は、回りくどい言い方で、単純なことをわざわざ複雑に考えるほうがおもしろい。本書は、逆なのだ。つまり、回りくどい言い方をしているのだが、複雑なことを単純に考えてしまっているので、橋本治の魅力がなくなってしまったのだと思う。