石原千秋『大学生の論文執筆法』

石原千秋『大学生の論文執筆法』ちくま新書、2006年6月
本書は、「第一部 秘伝 人生論的論文執筆法」と「第二部 線を引くこと――たった一つの方法」の二つに分かれているが、重要なのは第二部である。第一部は、以前『ユリイカ』で特集した「論文作法」に掲載された文章に手を加えたものだし、いくつか興味深い話(印税についてとか)があるものの、読み飛ばしてしまってもいい。だが、第二部は大学生はもとより大学院生も必読。
第二部のタイトルは「線を引くこと」であるが、これは何も本に線を引く方法を説いているわけではなく、いわゆる「二項対立」の思考について述べている。「二項対立」の考え方が批判されているのは当然、石原氏はわきまえている。だが、それでも論文を書くためには、まず「二項対立」を身につけておかねばならないという。「二項対立」を批判するにも、「二項対立」が必要だからだ。
というわけで、第二部ではいくつかの論文を例に挙げ、その構造を分析しながら、研究者がいかにして「線を引く」のか提示していく。これは、他の論文執筆法の本には見られなかったものだ。繰り返し読んで、思考するとはどういうことなのか身につけたい。
補足。第一部で、石原は「モノを書いて生活」するには、どれぐらい原稿を書けばよいか計算している。それによると、文芸雑誌の原稿料が400字の原稿用紙一枚につき5000円程度なので、月に200枚書けば月収100万円、年収にして1200万円となり、一流サラリーマンクラスの収入になるだろうと。だが、石原はこの200枚という数字で、フリーは「無理だ」と悟ったと書く。なぜなら、コンスタントに200枚も依頼が来ないだろうからだという。それならどうすれば、月に200枚も来るようになるか。答えは「奇跡を待つ」しかないとのこと。モノを書いて生活するのは、ほとんど不可能に近いことが分かった…。

大学生の論文執筆法 (ちくま新書)

大学生の論文執筆法 (ちくま新書)