マルセル・カミュ『黒いオルフェ』

◆『黒いオルフェ』監督:マルセル・カミュ/1959年/フランス/107分
オルフェウスの神話を下敷きにした映画。この神話を現代のリオのカーニヴァルを舞台にして、甦らせる。調べてみると、1959年のカンヌ映画祭でグランプリを、1960年米アカデミー賞外国語映画賞を受賞している映画。公開当時は、かなり評価の高い映画であったと推測できる。日本でも1960年度「キネマ旬報」ベストテンで外国映画6位となっている。
主人公のオルフェは、市電の運転手だが、歌と踊りがうまいと評判。彼にはミラという婚約者がいる。
カーニヴァルを前日に控えた日に、従姉妹の家にやってきたのがユリディスという一人の娘。この従姉妹セラフィナの家は、オルフェの隣の家で、オルフェとユリディスはそこで運命の恋に陥る。だが、しかしユリディスはなぜか死神の扮装をした男に命を狙われている。セラフィナの家に来たのも、死神から逃げるためだった。
カーニヴァル当日、オルフェを中心としたグループが大通りを踊り歩く。ユリディスも、セラフィナと入れかわって、このグループに参加し、踊っている。それに気が付いたオルフェの婚約者ミラが怒り、ユリディスを殺そうと追いかける。それを見た死神も、ユリディスを追いかけ、市電の車庫でつかまってしまう。そこでユリディスは死んでしまう。
そのことを知ったオルフェは、嘆き苦しみ、ユリディスは生きていると信じてカーニヴァルで熱狂する街を彷徨う。これは、神話の冥界下りにあたるのだろう。
オルフェは、とある家に入り込み、そこで霊媒を行っている集団をみる。そこでユリディスを呼ぶと、彼女の声が聞こえる。しかし、振り返ってはいけないという。オルフェは、たまらず周囲を見回すと、一人のおばあさんが、ユリディスの声で話していた。そこで、全てを失ったことを悟るオルフェ。その後、遺体安置所に行き、ユリディスの遺体を引き取ったオルフェは、ユリディスを抱きかかえて、自分の家に帰る。その途中で、怒り狂ったミラに出会い、ミラが投げた石がオルフェの頭に直撃し、その衝撃でユリディスを抱えたまま崖から落ちるオルフェ。
物語は、ざっとこんな具合なのだが、私には消化不良だった。結局、ユリディスがなぜ死神に扮した男に命を狙われているのかが分からないのだ。しかも、誰もユリディスの死の原因を突き止めようとしない。それはどうしてなのか、考えてみる。
結論を言えば、ユリディスは「死」に取り憑かれている女性なのだ。彼女は、その理由は分からないが、死を自らに招くようなのだ。しかも、彼女の振るまいを見る限り、彼女は死から本当に逃れようとはしていない。逆に、死へと自らを追い込んでいるような節がある。
それはどうしてかと言うと、彼女は死神に追いかけられるとき、必ず人がいないほうに逃げていくのだ。街や村は、カーニヴァルでたくさんの人がいるにも関わらず、その人たちの元に逃げ込み、助けを求めようとしない。逆に、この喧騒から離れ、自ら死に場所を求めるかのように、人がいない場所へと逃げていく。この逃避の仕方は、間違いなく死を自ら望んでいるとしか言えない。さらに、オルフェを愛したことによって、ミラの怒りを買い、ミラからも殺されそうになることもつけ加えれば、ユリディスは自ら死を望みつつ、かつ物語も彼女に死を与えようと必死である。ユリディスは、理由はどうあれ、死ななければならない存在なのである。まさに悲劇を体現する、そのためだけにカーニヴァルにやってきた女性なのだ。

黒いオルフェ(ポルトガル語版) [DVD]

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