今でも通用する本なのでは

吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』弘文堂
ずっと前に買ったままで、今まで全部を通読したことがなかったこの本。今更ながら、全部を読んでみて、この都市論は今でもまだ使えるのではないか、と思う。
都市を演劇の舞台に見立てて、そこで上演されるドラマを分析するように、都市を分析する<上演論的パースペクティヴ>という視点がすごく刺激的なのである。都市を演出する側からの分析があり、それに対して、その演出された都市のなかで演技をする役者の側からの分析を重ねる。それまでの都市論が、都市を設計する側に立った分析か、あるいは都市の中に入り込み、そこで観たもの、感じたことを記録するものだった。吉見氏の都市論は、いわばこの二つが交流するような場であるといえる。設計する側、享受する側のどちらか一方に偏った視点ではなく、非常にバランスのとれた分析だと思った。
この本から、『広告都市・東京』や、おそらく『趣都の誕生』も生れたのだろうと思うと、今こそしっかり読んでおくべき本なのだろう。