よくがんばった

◆E.R.クルツィウス『ヨーロッパ文学とラテン中世』みすず書房
モブ・ノリオ『介護入門』文藝春秋
ようやく苦労の末、『ヨーロッパ文学とラテン中世』を読み終えた。正直に言うと、内容はほぼ理解できなかった。とりあえず、読み通すことだけを目標にがんばってみた。読み終えた直後に思ったのは、この先の人生で、二度とこの本を通読することはないだろうなあ、ということだった。
やっぱり、この本はこの分野を相当研究している専門家じゃないと、読んでも時間の無駄だ。そんな本に一週間も費やしてしまった…。ちょっと後悔。分厚い本を読んだ後というのは、内容が理解できなくて、自己満足からくる充実感を味わうことが多いのだけど、今回ばかりはもうほとほとイヤになって絶望感ばかりを味わった。
基本的に、クルツィウスは「ダンテ万歳!」という人なんだなあ、これが。つまり、「ダンテ万歳!」ということを言うために、はるか古代から中世の厖大な文献を狩猟し、読み解き、それを分類するという気の遠くなるような作業をした、というわけなのだ。私は、読んでいる途中で、この研究にクルツィウスの「狂気」すら感じた。いや、記述は至って学術的で、奇抜な箇所など全然ない学術書ではあるが。
でも、こんな仕事をしていたら、命がいくつあっても足りないよなあと思う。尋常な作業ではない。おかげで読むほうでも命がけだ。冗談ではなく、本当に。ストレスで、頭がおかしくなりそう。
中世研究ということでは、バフチンの研究と近いものがあるのだけど、バフチンのほうが読みやすいし、第一おもしろいと思う。
そんなわけで、もしこの本を読むなら、訳者のあとがきだけ読めば良いんじゃないかなあなんて思う。全部読み通せば、根性が鍛えられると思う。
さて、芥川賞受賞作の『介護入門』をさっそく買って読んでみた。介護と大麻、という奇妙な組み合わせで、私はこういう組み合わせは個人的に好きではないので、期待していなかったけど、読んだらなかなかよく書けている小説だった。
まあ、でも、「よく書けている」というのは微妙なところで、悪く言えば、芥川賞受賞するために「よく書けている」と言える。そう思ったのは、最後のほうで、おばあちゃんが病院から退院してきた頃を回想する場面がある。そこで食事の介助をする主人公の存在を無視するかのように食事をするおばあちゃんに動揺してしまう主人公いて、こういうちょっとした事件というか出来事を挿入するあたりは、いかにも芥川賞受賞作だ、と思う。ただし、これは穿ちすぎな見方かもしれないけれど。
それにしても、この主人公はよく泣く。別に「男のくせにメソメソしやがって」なんて古くさいジェンダー意識を持ち出すわけではない。でも、日本の小説で、こんなに男性主人公が泣く小説ってあったかなあ。たんにこの主人公がラリっているからだろうか?まあ、この小説内では、主人公に限らず、みんな涙をよく見せるのだけど。
だけど、単純に可哀想な話だから「涙」がつきもの、というような思いこみへの批判が、この小説に込められているのは確かだ。