予想外に面白い本

福田和也『南部の慰安 福田和也文藝評論集』文藝春秋
大学の図書館に、福田和也の本があるなんて珍しいなと思って、借りて読んでみた。これが意外というか、期待以上の掘り出し物。面白い本だった。わたしは、福田和也なんてどうせたいしたこと書いてないんだろう、という先入観を持っていたのだけど、文藝批評に関してはその偏見を取り消さないといけない。
で、今後、福田和也の本を読むときに参考になりそうな箇所のメモ。

私の批評において目につく特徴が、「日本」という要素の、顕示的な導入であったことは事実です。私は、「日本」という概念を、単一的な理解においてでなく、多層的に用いてきました。ストリクトな地政学的概念として、皇室を中心とする歴史概念として、解釈学的な生成体として、文化的な統合概念として、ロマン主義な無底として、国民国家的な民族として、バーク的な崇高として、野卑な排外的言説の自意識として……こうした「日本」の様々な位相を、使い分けるのではなく、意識的に混淆して、グロテスクな固まりとして提示する事を、私は一方で批評の主軸としてきました。(p.291)

「日本」って、普通に書いてあるんだけど、こうやって多層的な意味で使っていたのか。読み取るのは難しいなあ。それにしても、今の時代、批評を成り立たせるのは難しい作業だなとつくづく思った。