勉強になる一冊

岡崎玲子『9・11ジェネレーション』集英社新書
9・11からイラク戦争へ、アメリカが突き進んでいた時期、アメリカの高校に留学していた著者のアメリカレポート。あの時期、アメリカでは何が起きていたのか、その時アメリカの高校生達が何を考えていたのか、著者の体験を基に語られていて、とても勉強になる本だ。
経験したことを語る、といっても抒情的なエッセイといったものではなく、きちんと資料を集め、それを分析し、高校の授業でクラスメイトと議論したことを踏まえたうえでの文章だけに、読み応えがあるのだ。「9・11」に関しては、専門家や評論家によるたくさんの分析があるけれど、高校生の見たアメリカもまたそれらと同じように興味深い。学術的なレポートでも、全然堅苦しい文章ではない。むしろ読みやすい文章なところに好感が持てる。こういう本が書けるように訓練するアメリカの高校にも、ちょっと驚いた。(と同時に妬みも感じる。私も高校生の時に、この本のようなアウトプットの方法を教えられていたら、どんなに幸福であっただろう。)
さて、本のタイトルでもある「9・11ジェネレーション」とは、著者の言葉ではなくて、彼女の高校に講演に来たクリントン政権国連大使ビル・リチャードソン氏の言葉だそうで、こういう言葉が出てくるということを見ても、この出来事のアメリカに与えた衝撃の大きさが感じられる。たとえば、日本では太平洋戦争の経験が、戦後の思想形成に大きな影となって存在していたわけだけど、「9・11」もそうしたものと同じような存在になるのかもしれない。今後、アメリカの思想形成にこの一連の出来事がどう関わっていくのか注意してみたいと思う。