小田中直樹『日本の個人主義』

小田中直樹『日本の個人主義ちくま新書、2006年6月
個人の《自律》をめぐって、本書では大塚久雄を取り上げ、そして彼の思想を近年のさまざまな思想や学問の成果と比較検討する。
まるで教科書のように、先行する所説を整理していく手際の良さには感心するが、読み物としては、いまいちな出来だったと思う。
話は脱線するが、最近の若手研究者が書く本では、この書き方が目につく。つまり、かなり多くの文献を要約して整理するという書き方のことだ。この書き方を「マッピング本」とでも呼びたい。「マッピング本」はたしかに便利である。私自身、この手の本に恩恵を蒙っているので、一概に否定できない。ちなみに、鎌田浩毅は『ラクして成果が上がる理系的仕事術』のなかで、この書き方を「クリエイティブ」と呼び、「オリジナル」と峻別すべきだと述べていた。
ではなぜ「マッピング本」が多いのかと考えると、ひとつには、インターネットのおかげにより、「編集」自体が一種の表現だと広く認知されるようになったからであろう。先行する所説の「編集」方法(誰の思想を取り上げ、どのように要約するか)に、著者のオリジナルな思想を読むというわけだ。さらに、多くの情報が手には入る今、読者としては誰かに情報を整理してほしいという欲求もあるのだろう。独創的な思考をする人よりも、要約・整理が上手な書き手が求められているといえそうだ。
したがって、「個人の自律とは、懐疑精神とコミュニケーション能力を兼ねそなえ、そのうえで「自ら立てた規範に従い、自らの力で行動すること」である(p.180)」という結論は、落着くところに落着いた感がなきにしもあらず。なぜなら、本書の書き方(形式)そのものが、この結論を導き出しているからである。
それにしても優等生的というか非常にお行儀が良い本だ。もちろん、結論が凡庸だから悪いというわけではなく、たとえ凡庸であっても主張すべきことは主張するのが学問だと思うので、本書の考えそのものは尊重したいと思うが。――
とはいえ、著者の読書ノートを読まされているようで、何かもう一工夫欲しかった。

日本の個人主義 (ちくま新書)

日本の個人主義 (ちくま新書)