竹内洋『教養主義の没落』

竹内洋教養主義の没落 変わりゆくエリート学生文化』中公新書、2003年7月
教養主義」とは何であったのかを説き明かし、そして戦後社会のなかで「教養主義」が没落していくまでを描いた、非常に面白い内容。旧制高校的なものと新制高校的なもののちがいとか、帝国大学の文士とフランスのノルマリアンのちがいなど、興味深い分析がなされている。それから岩波書店岩波茂雄についても書かれてあって、参考になることが多い本だった。
教養は当然だが読書と結びついていたのであるが、教養主義の没落とはまた読書の没落でもあるのだなと思った。学生が本を読まなくなったということではなくて、読書が特別な意味を持つ行為ではなくなったということだ。教養主義が、70年代あたりで没落していくのであるが、それにともなって読書は学生のなかで特権的な意味を持つものではなくなり、サブカルチャーの一つとなったのだと思う。読者は、マンガやアニメを見るのと同じことだというわけだ。終章で、著者が大学で授業をしていて、学生から「昔の学生がなぜそんなに難しい本を読まなければならないと思ったのか? それに、読書で人格形成するという考え方がわかりづらい」という質問に出会ったと書いているが、これは考えさせられる言葉だ。読書で教養を得る、そして人格を形成するということが、ある特定の時代と場所の文化でしかないことがよく分かる言葉である。
ということは、ここでの「教養の没落」とは、ある時代に特有の「教養」のあり方が没落しただけであって、また別の形で「教養」が現れてもいいはずだと思う。はたして、今の時代にふさわしい「教養」とは何なのか。

教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)

教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)