松井貴子『写生の変容』

松井貴子『写生の変容』明治書院
日本の近代文学史に必ず登場する「写生」。もとは、スケッチという美術の用語から来ているようだ。しかし、スケッチと写生はズレがあるのだが。美術と深い関連のある「写生」という言葉だが、これまでの日本文学研究では、美術と比較して論じられることはなかった。本書では、その点を踏まえて、美術論を参照しながら、文学史のなかでいかに「写生」が受け継がれてきたかを論じる。フォンタネージの美術教育が、日本の画家たちに受け継がれ、やがて正岡子規に至って文学の技法として洗練されていく過程が、豊富な資料でもって論じられていて興味深い。ただ最後に、志賀直哉が「写生」をどう受け継いだか論じているが、この章はイマイチで、加えなくても良かったのではないかと思われる。