幸田露伴『五重塔』

幸田露伴五重塔岩波文庫、1956年11月
幸田文の本を読んだので、その父露伴の小説も読んでみる。明治20年代の小説なので、すらすらと読めるような文章ではないのだが。
筋そのものは、それほど難しくない。大工だから頑固な職人物語と言えばよいのだろう。「五重塔」を作るという話を知った「のっそり」と言われている十兵衛が、大工として一世一代の仕事をしたいと、この「五重塔」作りを決意する。だが、「五重塔」は親方である源太が作ることになっていた。十兵衛は、源太に恩があるとはいえ、どうしてもこの仕事を自分の手でやりたいと願う。この十兵衛の固い決意が、この小説の中心。十兵衛が、この仕事を任されたことによって、周囲の人間たちにさまざまな波紋が及ぶ。このあたり、登場人物たちの心理の動きはおもしろい。十兵衛の仕事に面白くないと思う人間によって、十兵衛は襲われ片方の耳を失う事件などもあるが、それでも「五重塔」は作られていく。完成直後、嵐に襲われるが、十兵衛はぜったいに「五重塔」は倒れることはないという。ここに十兵衛の絶対の自信というか、まさに職人の魂を見ることになるのだろう。

五重塔 (岩波文庫)

五重塔 (岩波文庫)