ゲーテ『ファウスト 第二部』
◆ゲーテ(相良守峯訳)『ファウスト 第二部』岩波文庫、1991年12月
第二部は、かなり難解。ボリュームもあるし、筋も込み入っているし、一度読んだだけでは内容を把握するのは無理かも。読了後に訳者の解説を読んで、ようやく物語の内容が理解できた。その後、気になる箇所だけ、少し読み直してみると、はじめに読んだときはガラッと印象が変わって驚いた。
『ハムレット』といえば、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」という有名な台詞があるように、この『ファウスト』にも、もちろん重要な台詞がある。一応引用しておこう。
瞬間に向かってこう呼びかけてもよかろう、
留まれ、お前はいかにも美しいと。(p.462)
この台詞をつぶやくことで、ファウストはメフィストーフェレスとの賭けに敗れ、約束通りファウストの命が潰えることになる。
この台詞を吐くとき、ファウストが何をしていたかというと、人々のために開拓事業をしており、彼の最後の望みとは、人々は自由に働いて住める土地を提供することだったのだ。欲望を追求し享楽の果てにたどり着いたファウストの境地は、こういうことだった。
野は緑に蔽われ、肥えている。人々も家畜も
すぐさま新開の土地に気持ちよく、
大胆で勤勉な人民が盛りあげた
がっちりした丘のすぐそばに移住する。
外側では潮が岸壁まで荒れ狂おうとも、
内部のこの地は楽園のような国なのだ。
そして潮が強引に侵入しようとて噛みついても、
協同の精神によって、穴を塞ごうと人が駆け集まる。
そうだ、おれはこの精神に一身をささげる。
知恵の最後の結論はこういうことになる、
自由も生活も、日毎にこれを闘い取ってこそ、
これを享受するに価する人間といえるのだ、と。
従って、ここでは子供も大人も老人も、
危険にとりまかれながら、有為な年月を送るのだ。
おれもそのような群衆をながめ、自由な民と共に住みたい。(p.462)
こうして、ファウストは瞬間に対し「お前はいかにも美しい」と発し、最高の瞬間を味わう。
これに対し、メフィストーフェレスは、「永遠の創造とは、一体なんの意味だ」「過ぎ去った、ということに、なんの意味があろう」と言い、こうつぶやく。
おれはむしろ永遠の虚無のほうが好きだな。(p.464)
この悪魔らしいメフィストーフェレスの言葉も、私にはすごく魅力的に響く。こういうニヒリズムはけっこう好きだ。
思うに、ファウストは書斎にひきこもって、真理を獲得しようとすることに絶望して、享楽の限りを尽くしたが、それでも生の意味が得られず、結局労働に生の意味を見出した。つまり、ファウストは孤独なひきこもりの生活を批判しているのではないか。書斎から出よ、ということなのだろう。
これは、今の私には痛い批判だな。だからファウストよりもメフィストーフェレスのほうが私には魅力的に映る。だいたい、ファウストはひどい人物だ。己の欲望のおかげで、グレートヘンという一人の女性を不幸に追いやっている。そういう人物が、ユートピアを創造することで、幸福だなどと言ってはいけない。グレートヘンは、ファウストに良いように弄ばれたのに、最後までファウストを信じて、しかもファウストを最後に贖罪し天に導くのだ。ファウストは都合が良すぎる。自分勝手なのだ!。ファウストは地獄に落ちるべきだったのではないかと、私は思う。
- 作者: ゲーテ,Goethe,相良守峯
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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