エミリー・ブロンテ『嵐が丘』

エミリー・ブロンテ(河島弘美訳)『嵐が丘(上)』岩波文庫、2004年2月
エミリー・ブロンテ(河島弘美訳)『嵐が丘(下)』岩波文庫、2004年3月
これも、吉田喜重の映画『嵐が丘』に触発されて読んだ。さすがに、世界の文学でも10本の指に入るであろう傑作だ。めちゃくちゃ面白い。岩波文庫だと上下2巻になっているが、あまりの面白さにあっという間に読み終わってしまう。
その面白さとは何だろう。まず挙げられるのは、登場人物たち。それぞれが強烈な個性(現代風に言うならキャラが立っている)を持っていて魅力がある。悪の権化、復讐の鬼と言えるヒースクリフはもちろんのこと、彼の熱烈な愛の対象となるキャサリン。キャサリンの兄、ヒンドリー。キャサリンの夫となるエドガー・リントンとその妹のイザベラ。そして、この壮絶な物語に深く関わり、そして語り伝えることになるネリー。そのネリーの話を聞くことになるロックウッドに至るまで、どの登場人物も忘れがたい印象を与える。
また、この物語の形式も非常に興味深い。吉田喜重の映画では、物語の形式に能の要素を取り入れていたのは、実は原作の構成に忠実であろうとしたのだろう。冒頭は、ロックウッドが嵐が丘にやって来るところだ。ロックウッドが、ヒースクリフから、もとはリントン家だったスラッシュクロスのお屋敷を借りることになったためだ。そして、ロックウッドはヒースクリフおよびこの嵐が丘に何か怪しげなものを感じて、家政婦のネリーからこの壮大な物語を聞くことになる。
でも、途中でたしかロックウッド自身がネリーから聞いたことを語る、という場面があったと思うので、きちんと物語の構成(誰が語っているのかとか、語っている時間は?)を調べるとけっこう複雑になっていると思われる。物語の最後は、きちんと冒頭の場面に繋がっていくし、なにより物語を聞き終わった後に、再びヒースクリフに会うと「この人物が、あの恐ろしい人物のヒースクリフなのか!」と一種異様な臨場感を読者の私は感じた。
エミリー・ブロンテ、恐るべし。

嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)