シェイクスピア『ハムレット』

シェイクスピア(野島秀勝訳)『ハムレット岩波文庫、2002年1月
今更ながら言うのも恥ずかしいが、これはすごく面白い。もっと早く読んでおけば良かったと激しく後悔する。有名な場面、有名な台詞がバンバン出てきて、そのたびに「お!これが、あの台詞か」とニヤニヤしてしまう。

生きるか、死ぬか、それが問題だ。(p.142)

ハムレットのこの台詞は、あまりにも人工に膾炙されているので、わざわざ引用するまでもないか。
この戯曲を読んでいていいなと思うのは、言葉の使い方が面白いこと。駄洒落ではないかもしれないけど、言葉を巧みに使っている。気になった場面を一つ引いておくと、第2幕第2場でハムレットが本を読みながら登場し、そこにポローニアスが話かける場面がある。ポローニアスが「殿下、何をお読みで?」と言うと、ハムレットはこう答える。

ハムレット 言葉、言葉、言葉。
ポローニアス いえ、中にはどんなことが?
ハムレット 仲って、誰と誰との?
ポローニアス いえ、お読みになっていらっしゃる本の中身ということでして。(p.108)

この場面、原文はどうなっているのかが、すごく気になる。「仲」と「中」と訳者は訳しているけれど、英語ではどう言っているのだろうか?冷静に読むとハムレット、嫌味だなあ。何を読んでいるかと聞かれて、「言葉」と答える人とは付き合いにくいものだ。
あとはヨリックのしゃりこうべの場面も引用しておこう。

ハムレット ちょっと見せてくれ。ああ、哀れ、ヨリック!あいつなら、よく知っている、ホレイショー――のべつ幕なしに気の利いた冗談を飛ばす男だった。始終、ぼくをおぶってくれたものだった。それが今や、いや、思っただけでも身の毛がよだつ!吐きそうだ……(略)さ、その面さげて、誰でもいい、乙に澄ました貴婦人のお部屋に出かけて言ってやるがいい。どんなに厚化粧あそばしても、行きつく果ては、これ、このとおりとな。そう言って笑わせてやれ……ホレイショー、ちょっと聞きたいことがある。(p.280)

これだなあ。この思いにハムレットは取り憑かれてしまうのだ。この「行き着く果て」を考えてしまうと、あとは無気力になるしかないよなあ。この「病」からいかにして抜け出すか?これが「問題」なわけだ。

ハムレット (岩波文庫)

ハムレット (岩波文庫)