小田中直樹『歴史学ってなんだ?』、吉見俊哉『カルチュラル・ターン、文化の政治学』

小田中直樹歴史学ってなんだ?』PHP新書
吉見俊哉『カルチュラル・ターン、文化の政治学人文書院
歴史学ってなんだ?』はすごく面白い。久々に読んで満足感を覚えた新書。本書は、3つの大きな章がある。一つは、「史実を明らかにできるか」。次に、「歴史学は社会に役に立つか」。そしてこれらを総合するように「歴史家は何をしているか」がある。これらのテーマは、同じ人文系の文学を研究する者として最も関心のあるテーマだ。最近だと、歴史/物語を問う研究者も多いし。(例えば、刊行中の『岩波講座 文学』でも歴史と文学を扱った巻があったはず。)なので、読みながら「歴史」という語を「文学」と置き直してみたりした。文学は社会に役に立つか、というように。
特に印象的な箇所を引用してみる。

そして、歴史を論じる文章を書く際に留意しなければならないポイントは、この「読み手をわくわくさせる力を備えていなければならない」ということにあります。文章化するということは、読み手とコミュニケートするということです。読み手をわくわくさせられなければ、コミュニケートは困難です。そんな文章は、書き手の自己満足以上のものにはなりえません。

そして、さらに歴史家に必要なものとして「情熱」を挙げる。「情熱」があれば良い、ということではないけれど、「情熱」の込められていない歴史像は面白くないと述べていた。
この辺りを読んで、そうだそのとおりだ!と納得する。たしかに、読んで面白い研究書というのは、文芸作品を読んでいるときと同じように「わくわく」するものだ。こういう経験は何度かしたことがある。というか、書評でも書いて紹介したいと思う本は、たいてい読んでいて「わくわく」した本だ。「わくわく」しない本など、紹介しようとも書評を書こうとも思わない。
読み手に何かを喚起させる力、それをもたらす書き手の情熱。私が論文を書くときには、このことを常に心がけておこう。