たしかにすばらしい詩集だ

◆伊良子清白『孔雀船』岩波文庫
たくさんの作られた詩のなかから、わずか十八篇を選んで編まれた詩集だけあって、どの詩も完成度が高い。はっきり言って驚いた。とりあえず、「漂白」という最初の詩の第一連を引いてみよう。

蓆戸に
秋風吹いて
河添の旅籠屋さびし
哀れなる旅の男は
夕暮の空を眺めて
いと低く歌ひはじめぬ

声に出して読んでみると分かるのだが、五・七のリズムで構成されているので、すごくリズムがよい。すらすらと口ずさむことができると思う。ほぼ全部の詩が、この五・七あるいは七・五のリズムを守っている。これが清白の詩の特徴だと言える。
「漂白」のタイトルで「秋」「夕暮れ」「さびし」などの言葉からすると、伝統的な秋の歌と言って良い。いわゆる「三夕の歌」(cf.心なき身にも哀れはしられけり鴫立つ沢の秋のゆふぐれ  西行法師)を踏まえているようだ。どうやら、このあたりが、清白の評価を低いものにしたらしい。清白にとって不運だったのは、この詩集が出版された時代(明治三十九年に出版)は定型詩などは批判され、また口語詩が作られ始めた時期であったということだ。したがって、清白の詩はおそらく時代を逆行するような、古くさい詩だと受け取られたのかもしれない。
それにしても、声に出して読む日本語ではないが、清白の詩は口に出して読むとかなり心地よい。これが魅力だと思う。特に圧巻だと感じたのは「夏日孔雀賦」という詩である。つがいの孔雀の姿を描写している。少々長い詩なので、その冒頭の一部分を引いてみる。

園の主に導かれ
庭の置石石燈籠
物古る木立築山の
景ある所うち過ぎて
池のほとりを来て見れば
棚につくれる藤の花
紫深き彩雲の
陰にかくるゝ鳥屋にして
番の孔雀砂を踏み
優なる姿睦つるゝよ
地に曳く尾羽の重くして
歩はおそき雄の孔雀
雌鳥を見れば嬌やかに
柔和の性は具ふれど
綾に包める毛衣に
己れ眩き風情あり

まことに美しい。香気漂うような見事な詩になっていると思う。すごい。