真銅正宏『小説の方法 ポストモダン文学講義』

◆真銅正宏『小説の方法 ポストモダン文学講義』萌書房、2007年4月
文学理論の入門書。ある程度文学理論に馴染んでいないと、少々むずかしいかもしれないが、面白い内容になっている。様々な理論の紹介だけでなく、理論を基にしながら、「小説とは何か」という問題に答えようとしている。その思考過程が非常に有益。
本書では、小説が他の芸術と異なる点を「非映像性」としている。視覚文化が優位となる現代において、小説の役割は何か。興味深い問題である。小説は言語芸術であり、そこには映像も音もなく、すべては言葉を介して読者が想像することで、世界が構築されるという。言語記号からイメージを「想像」すること。それは、小説の楽しみの一つであり、同時に困難な点でもある。

 小説においても、もちろん、イメージの喚起力が強い表現は、読者の頭の中に、鮮明なる像を結ばせるであろう。しかしこの「想像」の作業は、現実には極めて労力の要る作業である。文字という記号から、自らが持つコードを参照し、そこに具体的な映像まで用意しなければならないからである。最近の読書行為では、記号化が進み、想像をしなくても済むような読書行為が増えているのではなかろうか。(p.189-190)

このあたりの問題は、『ゲーム的リアリズムの誕生』の議論と合わせて考えると面白い。「記号化が進み、想像をしなくても済むような読書」が増加した「環境」のなかで、小説がどのように生き残るのか。
また、本書の後半では、物語や虚構をいかに復権させるかが問われるのだが、「今は、これまでのような小説読者を増やすことによる小説の復権ではなく、小説作者を増やすことによって、小説を取り巻く環境自体から整備するべき時なのかもしれない(p.179)」という言葉を考えてみる必要がある。

小説の方法―ポストモダン文学講義

小説の方法―ポストモダン文学講義