「僕はこれでも君から尊敬されたいんだ」

漱石の『明暗』に、貧乏で社会主義的な思想を持つ「小林」という不気味な男がいる。今風に言うなら「負け組」にあたる人物とでも言おうか。ともかく、漱石の作品に似合わないキャラクターで、研究者にはウケがいいというか割と注目されている登場人物だ。その「小林」が主人公の「津田」に向かって吐く言葉は、現代の視点から読んでみても鋭い。

「君は僕が汚い服装をすると、汚いと云つて軽蔑するだらう。又会(*たま)に綺麗な着物を着ると、今度は綺麗だと云つて軽蔑するだらう。ぢや僕は何うすれば可いんだ。何うすれば君から尊敬されるんだ。後生だから教へて呉れ。僕はこれでも君から尊敬されたいんだ」