野村芳太郎『鬼畜』

◆『鬼畜』監督:野村芳太郎/原作:松本清張/1978年/松竹/110分
印刷業を営む男が、妻に隠れて女性を囲って、しかも子どもを3人作っていた。しかし、経営状態が悪くなり、愛人やその子どもの面倒を見る余裕がなくなる。愛人は意を決して、男のもとに押しかけ、子どもたちを置いて逃げてしまう。突然3人の子どもを押しつけられた男は、苦労しながらも面倒を見ていたが、次第にその面倒に耐えられなくなり、一線を越えてしまう。――
野村芳太郎の映画では、「落下」の主題をよく目にする。要するに、崖から身を投げることである。『ゼロの焦点』では、身を投げることで、過去を消し去ろうとする。『配達されない三通の手紙』は、崖から車ごと転落することで、事件は幕を閉じる。要するに、崖はそこから落下するために登場するわけだ。本作では、この「落下」の主題がよく活かされた映画だと言える。いかに落ちるか、あるいは落とすのか。この主題だけで、物語の後半を引っぱっていく。これはもう見事な展開で、言うことなし。野村芳太郎の演出が素晴らしい。