大竹文雄『経済学的思考のセンス』

大竹文雄『経済的思考のセンス』中公新書、2005年12月
身近な題材をもとに、経済学的に考えるとはどういうことなのかを教えてくれる。経済学の議論の仕方がよく分かった。
では、本書で言う「経済学的思考」とは何だろうか。それは、「社会におけるさまざまな減少を、人々のインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直す」ということだ。もう一つ、著者が重要視するのは「因果関係」である。経済学では、因果関係をはっきりさせることが重要であるという。「インセンティブ」と「因果関係」をキーとして、身近にある格差について考える。
取り上げているテーマがユニークだ。たとえば、「女性はなぜ、背の高い男性を好むのか」とか「美男美女は本当に得なのか」「イイ男は結婚しているのか?」など、こんなことまで経済学的に考えることができるのかと驚いてしまった。何より驚かされたのは、「人は節税のために長生きするか?」というテーマである。長生きすることで、相続税を節税できるなら人は死のタイミングを遅らせるというらしい。コプクズク教授とスレムロッド教授が「節税のために死ぬ(死ぬほど節税したい)――相続税の死亡時期弾力性に関する相続税申告データによる実証」という論文を書いた。これは、2001年のイグ・ノーベル経済学賞を与えられたとのこと。教授らは、たとえば2000年の第一週の病院の死亡者数が、1999年の最終週の死亡者数よりも50.8パーセント高かったという「ニューヨーク・タイムズ」の記事を紹介しているという。「つまり、人々は大事なことがすむまでは、死のタイミングを少し遅らせることができるということだ」(p.52)。
そこで、死亡時期をずらすことで金銭的な便益が発生するなら、人は死亡時期を延ばそうとするだろうと経済学者は考えた。アメリカの相続税申告データを用いて検証した結果、「相続税の税制改革が行われる場合は、その直前に死亡率が低下し、減税直後に死亡率が上昇することをある程度実証することに成功している」(p.52)という。人の生死までも金銭的インセンティブに影響されている! これは面白い。