野村芳太郎『迷走地図』

◆『迷走地図』監督:野村芳太郎/原作:松本清張/1983年/136分
これは、権力と金とスキャンダルが渦巻く政治の世界を描いた作品。政権第一党の実力者である寺西(勝新太郎)が、次期総理の座を虎視眈々と狙っていた。そんな大事な時、寺西の有能な秘書(渡瀬恒彦)が突然寺西の元を去る。その後、彼はひそかに後輩のルポライターにある手紙を託して、亡くなった。その手紙は、実は寺西の夫人(岩下志麻)がその秘書に宛てたラブレターであった。そのスキャンダルが、寺西の政治的野望を打ち崩してしまう。――
あらゆる手段を使って己の野望を成し遂げようとする男たちと、そんな男たちに都合良く使われる女たち。物語は、男対女の対立の様相を呈している。ラブレターが男の野心を吹き飛ばしてしまうのは、ある意味、女性によるささやかな抵抗であると読めなくもない。とはいえ、最後に、寺西夫婦が元の日常生活に収まっているところをみると、女の抵抗など、強大な権力(=男)の前では、ほんのちょっとしたダメージでしかないのだろうか。