野村芳太郎『女の一生』

◆『女の一生』監督:野村芳太郎/1967年/松竹/120分
原作はモーパッサンの『女の一生』。これを信州の旧家を舞台にして、この家の跡取り娘である伸子の一生が語られる。ヒロインの伸子は岩下志麻が演じている。
伸子は戦争中病気で療養所で過ごし、戦後になって回復し、家に戻ってくるところから物語は始まる。ある日、宗一がこの家を訪れる。これがきっかけとなって、伸子はこの宗一と結婚することになる。が、次第に宗一は家の使用人に辛く当たるようになり、そのうち女中で伸子と乳姉妹であるお民に手を出す。お民は妊娠し、伸子は夫とお民の関係を知り大きなショックを受ける。子どもを生んだお民は、家を出され農家に嫁ぐ。一方、伸子にも宣一という子どもが生まれていたが、宗一の浮気は収まらず、伸子と宗一の夫婦関係は冷え切った状態になる。しかし、宗一は浮気相手の女性の夫に殺されてしまう。
その後は束の間の穏やかな生活があり、息子の宣一は成長、そして東京の学校へ行った。だが、東京で一人暮らしをしていた宣一は不良グループと付き合いはじめ、ある日交通事故を起してしまう。まったく反省しない宣一は、家長であるおじいさんから勘当されてしまう。だが、息子を溺愛する伸子は、いつか家に戻ってくることを心の支えにして、密かに息子にお金を送り続けていた。
父も母も亡くなり、家は没落。大きな屋敷も廃墟となり、伸子には、もう頼るべき人物がかつて家を追い出されたお民しかいなかった。お民の家で生活しながら、息子宣一が自分のもとに戻ってくることを夢見る。しかし、宣一は東京ではる美という女性と結婚していた。はる美は宣一の子を産むが、それが原因で亡くなる。伸子に、自分の孫が出来たところで物語は終わる。
物語で特徴的なのは、やはり死と誕生が強く結びついていることだろう。誕生のあとには死があり、死のあとには誕生がある。伸子は、この死と誕生の運動に対し、まったく無能力者として存在する。伸子は、自分の周囲で起きるこうした状況に、自分一人では何も手を出すことができない。黙って結果を受け入れるしかないのだ。このような自分の人生を、伸子は不幸であると認識するが、お民はいや、そうではないのだと説教する。人生は不幸でも幸福でもないものなのだ。