吉村公三郎『夜の素顔』

◆『夜の素顔』監督:吉村公三郎/1958年/大映/121分/シネスコ
日本舞踊の世界を舞台に、女たちの争いを描く。これも主演は京マチ子。ここでも、京マチ子は、使えるものはなんでも利用して生き抜いていく強い女性を演じている。戦時中に南方で慰問団にいて踊りをしていた女性(京マチ子)が、戦後、日本に引き揚げてきて、日本舞踊の師匠(細川ちか子)のところに弟子入りする。
京マチ子が巧みに立ち回ったおかげで、この家元はどんどん大きくなっていく。そして、京マチ子は師匠を裏切り師匠のパトロンを寝取り、師匠から独立。自分の家元を立ち上げる。そこにやってきて、京マチ子の第一の弟子として振る舞うのが若尾文子京マチ子若尾文子の対決となる。若尾文子は、京マチ子と正反対の女性で、一見すると大人しい、ただただ師匠を慕っている平凡な女性なのだが、実はしたたかで、京マチ子の夫を寝取ってしまう。裏切りは裏切りを呼ぶわけで、京マチ子はかつて自分がしたことを、今度は自分の身に降りかかる。師匠の前では忠実な弟子の仮面を被る若尾文子の白々しい演技が見事。
そんな裏切りをものともせず、新作の創作舞踊を発表する京マチ子。だが、もともと心臓に持病をもっていた京マチ子はその舞台の途中で倒れ死んでしまう。若尾文子が、その時、人前で悲しむふりをしながら、新聞記者にこの後どうなるのかと尋ねられると、自分がこの家元を継ぐことをきっぱりと宣言してしまう。このしたたかさが若尾文子の魅力なのだ。