清水幾太郎『倫理学ノート』

清水幾太郎倫理学ノート』講談社学術文庫、2000年7月
この前、『岩波応用倫理学講義4 経済』を読んだときに、川本隆史氏がこの本を紹介していたので読んでみた。「ノート」ということだけが、かなり専門的な話で、経済学も倫理学も素人の私には、かなり難しかった。本書全体を通じて、批判の対象となっているのはムアだ。

私のノートは、ムアに始まる直覚説に対する疑いのゆえに書き始められたものである。彼は、善を一切の「自然的なもの」から切り離して、その定義乃至分析を拒否し、倫理学の内容を倫理的用語の分析に限り、その結果、現実の倫理的問題の研究は、倫理学の仕事ではなくなってしまった。その時に彼が用いたのが、「自然主義的誤謬」というスローガンであった。(p.398)

論理と経験の二項対立が本書には見られる。論理の世界は1と0の世界で、一方経験の世界は、1と0の間にあるグレーゾーンのことだと思う。分析哲学とか数学を取り入れた経済学を批判的に取り扱っていたと思うのだが、これらが1と0しか扱わないからだ。清水にとって、重要なのは1と0の間なのだと思う。1と0の論理の世界は、「現実」から遠ざかってしまうと清水は見ているようだ。清水の理想の倫理学は、もちろん「現実」に積極的にかかわるものなのだろう。

倫理学ノート (講談社学術文庫)

倫理学ノート (講談社学術文庫)