成瀬巳喜男『晩菊』

◆『晩菊』監督:成瀬巳喜男/1954年/東宝/111分
杉村春子と言えば、私は脇役で強い印象を残す女優と思っていたが、この作品では主役を演じている。昔は芸者をしていたが、男に幻滅し、金だけが信じられると、金ばかりに執着している中年女性を演じている。かつての芸者仲間にも、貸した金を請求して回るこの女性には、はじめはちょっとした嫌悪感を覚える。だけど、完全な悪者だとは思えない。同情というのか、この女性の姿を見ているうちに、しだいにこの女性の世界に対する幻滅あるいは諦念のようなものに共感してしまう。だいたい登場する男たちは、彼女のお金が目当てで、てんでだらしがないのだ。幻滅するのも仕方がないだろう。それにしても、上原謙はだらしがない男を演じさせると上手い。
さて、この作品もラストシーンが素晴らしい。芸者仲間のうちの一人に、息子がいるのだが、その息子が北海道に行くことになる。親と子が離ればなれになってしまう。北海道へ出発する当日の、駅の場面。親子がホームに向かうために、階段を上がっていくのだが、この階段の映像が光の差し込み具合のためか、非常に美しい映像になっているのだ。明るい光に照らされた階段を、母と息子、母の芸者仲間の3人が上っていく。まるで光の中へ入っていくように。