成瀬巳喜男『稲妻』

◆『稲妻』監督:成瀬巳喜男/1952年/大映/87分
原作は林芙美子高峰秀子が、バスガールとして観光案内をしている冒頭場面。この前見た『秀子の車掌さん』を思い出した。『秀子の車掌さん』ではへたくそだったけれど、ここではうまくなっていた。
高峰秀子は4人兄弟の末っ子の役。姉が二人に兄が一人いるのだけど、それぞれ父が異なるという複雑な家族関係。高峰秀子は、姉たちの結婚や母親の人生から、結婚に幻滅しているという女性だ。家族との関係にうんざりした高峰は、家を飛び出し、一人暮らしをはじめる。「幸福」って何だろう?――おそらくこれが物語のテーマになるのだろうか。
最後の場面がすばらしい。一人暮らしをしている高峰秀子のもとに、母親が会いに来る。ここで、母親と家族のことについて話し合っているうちに、母親と諍いを起こし、「どうして生んでくれたのよ」と母親を激しく問いつめてしまう。成瀬の映画は、小津とちがって、窓の外の風景にも奥行きがあるのだが、この時遠くの空で稲妻が光るのだ。この稲光が、幻想的でとても印象に残る。その後、先ほどまでの喧嘩はどこに行ったのかという感じで、二人は何事もなく笑い合い、高峰は帰宅する母を送っていく。こうして映画は終わる。この家族の問題は、何も解決されないし、おそらくこれからも厄介な事が起きるのだろう。それでも生きていくのだろうと予感させる。見終わった時、不思議とすっきりした気分になる。間違いなく名作。