成瀬巳喜男『妻よ薔薇のやうに』

◆『妻よ薔薇のやうに』監督:成瀬巳喜男/1935年/PCL/74分
戦前の成瀬映画を初めて見た。成瀬巳喜男というと、私は『浮雲』の印象が強く喜劇的なものとあまり結びつかないのだが、この作品は主人公の娘が昭和のモダンガールの雰囲気があり、非常に明るい女性で、見事なコメディエンヌぶりを発揮していたと思う。また、彼女の両親がまったくの生活無能力者であり、誰かに助けてもらわないと生きていけないという点も面白い。夫婦なのに、他人行儀のあいさつを交わしていたりするところなどが、ギャグになっているのだろう。その一方で、二人とも愛し合っているのに、他人行儀でしか関係が築けないというところが悲劇というかメロドラマにもなっている。笑いと同時に悲哀もある、複雑な作品だと思う。