山田詠美『PAY DAY!!!』
◆山田詠美『PAY DAY!!!』新潮文庫、2005年8月
「9・11」を背景にもつ文学作品ということで、どんなものなのか読んでみた。
ハーモニーとロビンの双子を中心に、その家族や恋人との関係を描く。ハーモニーとロビンの両親は離婚して、母はニューヨークで働いている。ハーモニーは父と一緒に南部の町ロックフォートに移り住んでいる。ロビンは母とニューヨークで住んでいる。ハーモニーはどうやら母とは、あまり良い関係ではないらしい。そのような状況で、運命の「9・11」がやってくる。母は、「ワールド・トレイド・センター」で働いているのだ。こうして母ソフィアを失った一家が、この喪失をいかに克服していくかが物語の中心テーマとなるのだろう。
ハーモニーは、年上で夫のいるヴェロニカと知り合い、不倫の関係になってしまう。この許されない恋で、ハーモニーは思い悩むのだけど、なんだかこの悩みはうっとうしい。ハーモニーは、同世代の女の子の注目の的、つまりモテる男なのだ。ハーモニーはとにかく女性からは親切にされる、ある意味非常に恵まれた人物であるが、唯一の例外の女性が母親のソフィアだった。どんな女性も引き寄せてしまうハーモニーが、母親とだけうまく関係を築くことが出来なかったというのは、面白いテーマだと思うが、それにしてもハーモニーは詰まらないことでうじうじと悩んでみる、退屈な男だと思う。双子の妹ロビンも、同様に退屈な人物ではあるが、それ以上にハーモニーにはイライラさせられる。
解説(豊崎由美)を読むと、どうやらこの小説の登場人物たちは、「大事なこと」をまっすぐに伝え合う、そんな直球勝負な人たちだと解釈している。たしかに、そういう人たちなのだろうと思うが、それゆえに共感できるとは限らないなと思った。私は、どうも、登場人物たちのこのストレートな心情告白が、逆に「嘘くさく」思えた。私がハーモニーやロビンに共感できなかったのは、彼らが真面目すぎるがゆえに嘘くさいからだ。
- 作者: 山田詠美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/28
- メディア: 文庫
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