中村登『古都』

◆『古都』監督:中村登/1963年/日本/105分
原作は川端康成。ヒロインの双子の役を岩下志麻(二役)が演じていて、とても美しい。映画の筋は、ほぼ小説と同じだった。映画では千重子が、幼なじみの真一の兄竜介と結婚することを苗子に告げるのだけど、この竜介を演じていたのが吉田輝雄だった。岩下志麻吉田輝雄の二人を見ると、小津ファンとしては『秋刀魚の味』を思い出す。岩下志麻がひそかに思いを寄せていた男性を演じていたのが吉田輝雄だった。『秋刀魚の味』では二人はすれ違ってしまうのだけど、『古都』ではうまく行きそうな予感を示して終わっていて、なんとなく良かったなあと思ったりする。
ところで、この映画の影の主役は音楽なのではないか。音楽を担当したのは、武満徹だ。古都京都を舞台にした抒情的な物語だと思うのだけど、抒情的な雰囲気を打ち破るかのように、音楽は登場人物の不安を煽る。決して悪い音楽ではなく、また映画をぶちこわすような音楽だと言うわけでない。しかし、音楽が強く自己主張しているなと感じた。画面に緊張感をもたらす旋律は、映画全体を引き締めて、非常に効果的なものだと思う。「古都」と「前衛」という面白い組み合わせだと言えるのかもしれない。