今井正『青い山脈・続青い山脈』

◆『青い山脈・続青い山脈』監督:今井正/1949年/日本/183分
原作は、石坂洋次郎(ISBN:4101003041)。原作はこの前読んだ。人間関係が若干変更されていたり、途中の省略があるけれども、映画はほぼ小説と同じ展開だった。
戦前の封建的な価値観に敢然と立ち向かい、戦後の新しい価値観に人々の意識を変えようとする若い女性教師の島崎先生を原節子が演じている。この映画は49年に作られているけれど、49年といえば『晩春』もある。原節子の魅力が一番出ていた時期なのではないだろうか。どうしても、原節子に注目してしまう。
その原節子の表情を見ていると、時折何か影のある暗い表情を見せることがあるのに気が付く。特に、明るい笑顔の後に、それを打ち消すかのように一瞬うつむき加減になり冷ややかな眼を示すことがあるのだ。この表情は、もしかすると演技というより彼女の癖なのかもしれないが、小津の映画においても、この暗い表情をすることがあったことが印象に残っている。
原節子の暗い表情を見て感じるのは、彼女はほんとうに戦後の新しい価値観を信じていたのだろうか、戦後という時代を肯定していたのだろうかということだ。私には、彼女にはどこかニヒリズムの影があるのではないかと思うのだ。『青い山脈』は、やたらと「明るい」戦後の社会、若々しい青春を称えるを描く、ある意味今から見れば「脳天気」な映画とも言える。戦前の抑圧からの解放的な気分が全体を覆っているわけで、それゆえに当時大人気の映画になったのかもしれない。原節子は、まさに新しい時代の価値観を象徴する女性として登場しているのかもしれないが、彼女の時折見せる影のある暗い表情は、そのような「明るい」雰囲気を裏切っているように思える。原節子は、戦後社会にどこか冷めた視線を向けていたのではないか。あるいは戦後に生きることに無意味さを感じていたのか。