今井正『にごりえ』
◆『にごりえ』監督:今井正/1953年/日本/130分
これは、樋口一葉の3つの作品をオムニバスで作られている。第一話は「十三夜」。第二話が「大つごもり」。そして最後の第三話が「にごりえ」だ。
映画全体の印象を率直に言えば、あまり出来がよくない。たしかにもともと一葉の小説が、下層社会に生きる人々、そのなかの女性たちを描くものなのだが、映画は下層社会のたとえば「貧困」の生活を強調していている。人の顔の極端なクローズアップの映像が、挿入されているのだが、そのイメージはたとえば『戦艦ポチョムキン』のような映像に似ている。私には、一葉の小説のイメージと、プロレタリアの映像のイメージが合わない、かなり違和感があるように思う。
それから、この映画の特徴として、長い台詞回しがある。第一話の「十三夜」で、母親が娘を庇って、娘の父親にその境遇を切々と夫にうったえる場面があるのだけど、ここの台詞が異常に長い。この台詞の長さは、というよりこの母親の演技は、もはや映画ではないのではないか。そんな印象受ける。それでは「映画」的な演技とは何かと言われると、私には明確な定義は持ち合わせていない。したがって、私の単なる主観的な判断で根拠はないのだが、ここの場面は「映画」というより「演劇」だと言ったほうが正しいと思う。私には「映画」に思えなかった。そう、この映画の不満は「映画」というより、舞台をそのままカメラで撮影したような作品であるという点なのだ。