今村昌平『楢山節考』

◆『楢山節考』監督:今村昌平/1983年/日本/130分
原作は深沢七郎。カンヌでグランプリを取った作品で、おそらく世界的にも有名な映画だろう。私は初めて見たのだが、映像の生々しさに衝撃を受けた。刺激が強すぎる。夢に見そうだ。
物語はよく知られているように、70歳を過ぎた老人を楢山に捨てに行かねばならないという村の掟通り、辰平の母おりんが山へと向かう。母を山へ連れて行かねばならない息子辰平の葛藤を、村の生活、寒村の自然描写を織り交ぜながら語られていく。
映像の生々しさというのは、特に自然描写に関してに見られる。動物や昆虫が交尾をしている映像や、蛇がねずみを食べたり、カマキリが別のカマキリを食べている映像などを、人間の生もしくは性の比喩として挿入している。こうした映像には、たとえばいやらしさだとか残酷さといった意味づけを拒む。ただただ自然の存在感に圧倒される。このような自然の映像の挿入は、人間の生に特権などない、人間もまたこの自然のなかの一つであることを示しているように思われる。人間も動物や昆虫と同じ位置に存在しているのだ。
したがって、たしかに楢山へ捨てに行くことは、村の、共同体の掟なのかもしれない。しかし、映画を見続けていると、この行為は人間の作った掟というよりも、まるで自然の法則であるかのように感じてしまう。辰平が山を降りて帰る途中に、雪が降る。これは、山へ登る途中で、辰平が神がいるなら雪を降らして欲しいと言ったことと対応する。山に雪が降り始め、辰平が「降った!」と呟く場面は印象的なのだが、この時辰平は神の存在を感じてしまったのだろうか。この雪によって、辰平が何かを突き抜けてしまった、あるいは底が抜けてしまったのは間違いないだろう。

楢山節考 [DVD]

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