ヘンリー・ミラー『北回帰線』

ヘンリー・ミラー『北回帰線』(『ヘンリー・ミラー全集(1) 北回帰線』大久保康雄訳、新潮社、1965年3月)
私は、奔放な性とか退廃的な都市生活を描いた小説は苦手なので、ヘンリー・ミラーもずっと遠ざけてきた。なので、途中でくじけないように、気合いを入れて読み始めたのだけど、予想に反して、猥褻な言葉が飛び交うわりには、全然不快な印象を与えない小説だった。しかし、一方で、イメージがイメージを生み出すような文体はけっこう難解だった。

永遠の都、パリ!ローマよりも永遠であり、ニネヴェよりも華麗である。まさに世界の臍だ。(p.189)

とか、

パリは売笑婦に似ている。遠くから見ると、男の魂をとろかすようであり、彼女を両腕に抱きしめるまで待ちきれぬほどだ。しかも、五分後には空虚感を味わい、自己嫌悪をおぼえる。だまされた思いだ。(p.215)

なんていう言葉は、ぜひとも暗記しておきたい。そして、いつかパリに行ったら、「パリは売笑婦に似ている」と、したり顔で言うのだ。

北回帰線 (新潮文庫)

北回帰線 (新潮文庫)