太田省一『社会は笑う』

太田省一『社会は笑う ボケとツッコミの人間関係』青弓社、2002年4月
ボケとツッコミというマンザイの関係を、笑いの基本構造として、この構造を通して80年代の日本の「笑い」の世界を分析した本。
ボケというのが、ある意味規範からの逸脱することであるとすれば、その逸脱を止め、秩序へと戻してやる役目がツッコミ。マンザイの形として、こんなものが考えられるわけだが(もちろん、様々なボケやツッコミの形があるが、それはひとまず置いておく)、ツッコミのほうが80年代を通じて徐々に衰弱化していく様子を、この本のなかでは指摘している。
いわば、ツッコミ役が省略された後に現れるのは、だれもがボケ役になっていく世界のようだ。このあたりの説明を、土居健郎の「甘え」理論で説明している。ボケとは「甘え」に寄りかかった「何でもあり」の状態、ツッコミの省略はこの「何でもあり」のボケの範囲をどこまでも広げていってしまう。「笑う社会」の延命は、この「甘え」の世界を延命させようとすることになるだろう。
北田暁大氏は、本書をすごく重要視していて、本書のアイデアから『嗤う日本の「ナショナリズム」』を生み出した。しかし、ほんとに本書は面白い内容なのだろうか?。
私自身の率直な感想を記すと、本書はあまり面白くなかった。私の読解力不足で、きちんと本書の内容を理解していない、ということは認める。だけど、そのことを差し引いたとしても、おそらく本書の内容はそれほど面白くないのではないか。もちろん、本書の全部が面白くないということではない。80年代の笑いを分析したところはよかった。ただ、その分析を、社会学的考察へ進める第4章において、先に触れたように「甘え」理論を援用して説明していた。ここにひっかかりを覚えるのだ。それで良いのかと。この説明が支離滅裂だったというわけではないのだけど。

社会は笑う―ボケとツッコミの人間関係 (青弓社ライブラリー)

社会は笑う―ボケとツッコミの人間関係 (青弓社ライブラリー)