四方田犬彦『心は転がる石のように』

四方田犬彦『心は転がる石のように』ランダムハウス講談社、2004年12月
この本は、比較文化の入門書としてちょうど良い本ではないだろうか。日本を飛び出して、世界各地に移動しながら思考を重ねていくスタイルにスケールの大きさを感じる(その半分で、その旺盛な行動力がうらやましい)。
でも、最近の四方田氏は、サイードのように表象のポリティクスを取り上げて論じているのが気になる。要するに「政治」の問題が、中心となっているのだ。
それ自体は批判どころか、毎回良い勉強になって研究の際においても大いに参考にしているのだが、やはりポストモダン(記号の戯れ)から「政治」批判へ移行してきた現在の研究者や批評家たちと同じ道を歩んでいるのだなあと思う。時折、否定的なニュアンスで「蓮實重彦」の名が出て来るが気になって仕方がない。
ポストモダン左旋回」ではないけれど、戯れ続けることに耐えられなくて、「政治」批判へどうしてみんな移動してしまうのか、私には理解できない。