中村秀之『映像/言説の文化社会学』

◆中村秀之『映像/言説の文化社会学 フィルム・ノワールとモダニティ』岩波書店、2003年3月
簡単に言えば、「フィルム・ノワール」という記号が、何を映してきたのか、ということを論じた本。この本を読んでも、「フィルム・ノワール」とは何か、ということは分からない。なぜなら著者は、「フィルム・ノワール」に定義を与えようとはしないからだ。そもそも、「フィルム・ノワール」は定義できるのか、と著者は問うている。
もちろん、これまでの映画批評や映画学のなかで、「フィルム・ノワール」とは何かということは問われ続けてきた。だけど、その試みはいつも「紋切り型」の定義に終ってしまう。そして、その定義からすり抜けてしまう映画が存在してしまうだろう。なのに、人々は「フィルム・ノワール」は定義できると、錯覚してしまうのだ。
こうして記号として漂う「フィルム・ノワール」は、社会や国家の関係のポリティクスにさらされてきたといえる。「フィルム・ノワール」には、論じる自己が投影されているのだ。本書は、映画批評あるいは制度としての映画学そのものを問い返すきわめてスリリングな研究書である。これは、一回しかできない研究だろうなあと思う。

映像/言説の文化社会学―フィルム・ノワールとモダニティ (現代社会学選書)

映像/言説の文化社会学―フィルム・ノワールとモダニティ (現代社会学選書)