中古智・蓮實重彦『成瀬巳喜男の設計』

◆中古智・蓮實重彦成瀬巳喜男の設計』筑摩書房、1990年6月
成瀬映画を理解するために読んでみる。
成瀬の映画製作は、成瀬組と言われる優秀な技術者たちに支えられていた。特に、カメラの玉井正夫と照明の石井長四郎、そして美術を担当しつづけたこの中古智らが、成瀬組の中心人物であった。その中古智と蓮實重彦がインタビューをし、日本映画における美術担当の歴史と成瀬の映画製作の裏側を聞き出している。映画史や映画研究では、映画のセットを担当する美術についてはあまり触れられることがこれまではなかったので、日本の映画美術史として、中古智の話は貴重なものだと思う。
昨日、『浮雲』を見たところだったので、『浮雲』がいかに撮影されたかという話が一番面白かった。『浮雲』は、主人公が移動を繰り返すので、セットの数も多く、かなり苦労したことが語られている。私の印象に残った伊香保温泉での階段の場面も、クレーンで撮影したことが明かされ、その難しさが語られている。また、『浮雲』は仏印屋久島が出てくるのだが、現地に行くことなく、もっぱらこれらの場面は伊豆あたりで撮影されたという。
成瀬映画の製作の裏側を知ることが出来る重要な本だ。

成瀬巳喜男の設計―美術監督は回想する (リュミエール叢書)

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