◆吉本隆明『夏目漱石を読む』筑摩書房、2002年11月
この本はタイトル通り、漱石の書いた作品を通じて、一人の人間「夏目漱石」がいかなる作家であったのかを読むものだ。こういう作業も、吉本隆明だから許されるのかなと思った。全体的にヌルイというか、作品の読解がユルユルなので、刺激を受けるようなことがなかった。
漱石は、なぜ三角関係を生涯の主な主題にしたのか――なんていう問いかけがあって、吉本はこう答える。それは漱石の資質の病気だと。漱石はパラノイア性の病気に近かったのではないかと言っている。漱石のパラノイア性ということで、関係の妄想があったとか、そんなエピソードを何度か引いている。吉本は、この自分の考え方が気に入っているみたい。しかし、漱石にパラノイア性の病気の類があったから、こんな作品を書いたのだという読みは、なんていうか素朴だなあとしか思えない。
漱石は偉大な作家(p.98)なので、他人がどういう漱石論を書いていようが、それらを無視して、自分の考えだけで論じることもできる(p.98)とまで書いてある。たしかに、そうなのかもしれないけど、やっぱり最近の漱石論も読んでみたほうが良いのではないかと。なにせ、吉本は江藤淳の漱石論で充分かなと言っているのだ。普通なら、いつの話だよと突っ込みたくなるだろうが、こうした暴挙も吉本隆明だから許されるのだろう。
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- 作者: 吉本隆明
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2002/11
- メディア: 単行本
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