川端康成『掌の小説』

川端康成『掌の小説』新潮文庫、1971年3月
本書には、一ページから数ページで終わる短篇、超短篇小説が122篇収められている。はじめは、短い小説ばかりだし、すぐに読み終わるだろうと高を括っていたが、読み始めるとこれでもかこれでもかと物語が現れてきて、かなり重量級の短篇集だった。まさに物語の洪水と呼べる。
テーマも多岐わたっている。夢であったり、生や死についてであったり、グロテスクなものもあり、よくまあいろいろな物語を書いたものだ。一つ印象に残ったのは、川端の「小さいもの」へのまなざしだろうか。「小さいもの」、たとえば赤ん坊だったり、子犬(川端は犬が好きなのだろうか?)、少年少女であったり...etc。このような「小さいもの」への強い関心、あるいは愛着というものを本書を通読してみて感じた。
愛着といえば、もう一つ「踊り子」も忘れてはならない。踊り子といえば、川端には『伊豆の踊子』という有名な作品があるが、川端はまた浅草への愛着もあるので、そこの劇場で舞台に立っている「踊り子」が、ちょくちょく物語に登場してくる。浅草の芸と作家。この関係が気になる。他に浅草に愛着を持っていた作家と比較してみたいものだ。「浅草」ということだけに注目した場合、川端康成北野武というような接続が可能になるだろうか?。「浅草」に何らかの影響を受けた「浅草」作家の系譜というものを調べてみても面白いかもしれない。

掌の小説 (新潮文庫)

掌の小説 (新潮文庫)