橋元良明『背理のコミュニケーション』

◆橋元良明『背理のコミュニケーション アイロニー・メタファー・インプリケーチャー』勁草書房、1989年1月
この本の「アイロニー」に関するところが、『嗤う日本の「ナショナリズム」』のなかで参照されていた。
本書では、「アイロニー」の正体をこう結論づけている。

アイロニーの正体とは、結局、字義通りの発話が可能な立場の人間に視点を移し、結果的に「言及」とみなしうる陳述行為を行うという一種の「仮人称発話」なのだというのが本稿の結論である。(p.87)

こうした「アイロニー」の原理の正否はともかく(というか、私には専門知識がないので判断できないが)、本書は「アイロニー」論よりもう一つの「メタファー」論のほうがおもしろいかも。
そもそも、著者の関心には、言葉が字義通りの意味ではないことを伝えてしまう、そうした含意表現にあるのだが、そこで従来の「アイロニー」論や「メタファー」論が検討され、尽くそれらが通用しないことが確認されるだろう。
何がアイロニーと受けとめられ、あるいはどの場合にメタファーと受けとめられるか。まさにこうした言葉の表現は、世界をどう認識しているのかということと関わっている。そんなことをあらためた感じた。