後藤明生『新鋭作家叢書 後藤明生集』

後藤明生『新鋭作家叢書 後藤明生集』河出書房新書、1972年5月
後藤明生は以前から気になる作家であったが、今回はじめて作品を読んだ。この本には、「関係」「笑い地獄」「S温泉からの報告」「何?」「誰?」「書かれない報告」が収められている。
こうしてタイトルを並べてみると、「報告」というのと「?」が気になる。この二つが後藤明生を読み解く鍵となるのだろうか。
「関係」は、どことなく横光の「機械」のような雰囲気で、文字通り、人と人との「関係」の力学を主題にしたような作品だ。
「笑い地獄」は怪しげなパーティーが登場し、「性」の主体という問題が見られる。
「S温泉からの報告」「何?」「誰?」「書かれない報告」あたりの作品になると、「団地」という主題が現れる。「郊外」「団地」といった主題になると、やはり社会学の知識も必要になってくる。「団地」がもたらす人間関係の変化、そこから生じる不安といったことが、語られることになる。
「団地」という「家」の不安を描いたのは、たとえば「書かれない報告」だろうか。突然、団地生活に関する報告書を依頼された男。その男の住む部屋は、原因不明の水漏れが生じていたり、ベランダの手摺りが錆びていたり、どこからともなく虫が現れ、男はその虫と格闘することが生活となっている。
この部屋は、たしかに外からの危険に対しては強いのかもしれない。だが、内部は腐食してしまっている。そして、例のごとく、この内部の傷はと男の傷でもあること、男の内面を象徴しているのだ。
あと、「水」の侵入というきわめて興味深い主題がある。「水」の主題は、「S温泉からの報告」が鮮明で、ここでは「水」と一体となりエクスタシーに達する男が登場している。後藤明生における「水」の主題も気になる。