映画とマンガ

映画狂人 最後に笑う
蓮實重彦『映画狂人最後に笑う』河出書房新社
夏目房之介マンガ学への挑戦NTT出版isbn:4757140843
澁澤龍彦三島由紀夫おぼえがき』中公文庫isbn:4122013771
きれいな本を手に入れたいと、bk1で注文したのに、『映画狂人最後に笑う』にほんのかすかに汚れがあってがっかり。他人から見たら、たいした汚れではないのかもしれないけど、私はほんの少しでも傷がついた本は我慢できなくて…。
マンガ学への挑戦』をパラパラっと、はじめのほうに目を通した。私は夏目氏のファンなだけで、現在のマンガ研究の現状や研究水準などまったく知らないので、この本ではマンガ研究の「今」を知って勉強になるが、私の専門の文学方面から見ると、一点だけまずい箇所がある。
それは、漱石について触れている箇所。ここは、夏目さんは孫にあたるわけなのだから、現在の漱石研究にもう少し目を配ってもいい。たとえば、石原千秋氏の研究(最近では『漱石と三人の読者』(講談社現代新書)など)に触れてもらえれば、漱石が「作家主義者」であったという指摘は危うい。

漱石作家主義は、神聖な創作行為の「内部」に依拠しており、芸術は受け手(社会)とは無関係に価値を与えられる(p.53)

漱石が、創作行為や観賞行為も含めてすべて作家のものだと考えていた、とはかんたんに言えない。特に90年代以降の漱石研究を読めば、このことは理解してもらえるはずだ。だけど、夏目氏は注の箇所で、ここでは「文学論」には触れないと書いてあるので、漱石に関して別の見方を持っているのかもしれない。夏目氏の漱石論が楽しみになってきた。
マンガ学への挑戦』はまだ全部読み終えてはいないので、本書全体の感想は書けないが、この漱石の箇所はどうしても批判しておきたかったし、他の読者にも注意を促しておきたい。