物語を読むあるいはその方法

中条省平『反=近代文学史』文藝春秋
大塚英志『物語の体操』朝日文庫
まずは『反=近代文学史』。中条氏の「書評」はたしかに面白し、かつ有益な情報となっている。中条氏の書評は、本を買うときに参考になっている。なので、この文学評論も期待していたのだけど、面白いのは、漱石と谷崎を論じた箇所ぐらいだろうか。
この本で、取り上げられている作家は、夏目漱石泉鏡花谷崎潤一郎江戸川乱歩稲垣足穂夢野久作三島由紀夫渋澤龍彦山田風太郎村上龍筒井康隆と盛りだくさんである。著者の「偏愛」する作家ということも論じられた理由でもあるけれど、「内面のドラマを追求する=近代文学」という枠組みをすり抜けてしまう作家たちを、ここでは「反=近代」の作家として取り上げているのだ。そういう意味では、教科書的な文学史からは異端視されるような作家も混じっており、タイトル通りの構成になっている。
でも、評論としてはいささか芸がないというか、それぞれの作家への切り込み方に工夫がなかったなあと感じる。率直にいえば、少々退屈だったのだ。これは、私の単なる印象でしかないのだけど。
それにしても、中条氏は物語を要約するのが非常に巧みなのだ。要約が巧い、ということはそれだけ物語の読みが鋭いということなのだろう。この点は感心する。要約の妙手といえば、四方田犬彦がいるわけだけど、中条氏も負けず劣らず、要約のテクニックには目を瞠るものがある。先に芸がないと述べたが、要約という芸があった。本当に要約に関しては一流である。
次に『物語の体操』。これは、小説をこれまで書いたことがない人を対象に、小説が書けるようになるまでのレッスンを6回に分けて論じたものだ。
その方法は、批評的に言えば、構造主義、ナラトロジーの応用だ。つまり、物語の構造(文法)つまりパターンを身につけてしまえ、ということなのだ。その際、ナラトロジーの使える所だけを抜き出して用いるというところが大塚英志らしい。
この本は、第一に小説の書き方を身につけることを目指すものだけど、また同時に「物語」への批評という面もあるという。たしかに、批評にとって、ジャンルの性格を見抜くことは必要だと思う。その点、手っ取り早く物語の構造を知るには、この本は役に立つ。物語理論の本を本格的に勉強しようとすると、けっこう難しい。実は、本格的な物語理論への橋渡しの役もこの本は果たしているのだ。