すごく面白い

蓮實重彦『映画への不実なる誘い』NTT出版
すごく内容が面白いので、一気に読んでしまう。この本は、2002年秋から2003年初頭にかけておこなわれた仙台での講演が元になっているという。だから、語り口調となっていて、読みやすい。
テーマは、「国籍」「演出」「歴史」の3つ。まず、「国籍」では映画において国境、国籍の概念が通用しないことの指摘がなされる。今風にいえば、国民国家の枠組みを軽々と超えてしまうのが映画だ、ということになるのだろうか。
さらに、ここでは具体的な映画の分析として、モーパッサンの『脂肪の塊』が各国においていかに翻案されていった様子が語られる。知らなかったのだけど、『脂肪の塊』がフランスはもとより、アメリカ、ソ連、そして中国、日本で翻案され映画化されているという。そこで、どうして『脂肪の塊』が各国で翻案され映画化されたのか、その意味を探ることになる。で、そのなかで、映画の「複製」の力が説明され、差異への感性の重要性が述べられている。このへんは、蓮實批評に親しんでいると明瞭に理解できることだ。
「演出」の講義では、映画は最低限「男と女と階段」があればできる、ということを具体的にはヒッチコック『汚名』を中心とした分析を通して語られている。
「歴史」では、ゴダールの『映画史』を読み解いている。読み解く鍵は「女性」である。というのは、『映画史』において、ゴダールは「女性」を召喚したかったのではないか、と思わせる仕掛けが施されているからだという。そんなわけで、『映画史』に現れる「女性」についての分析が始まる。『映画史』は見ても、良く分らない作品だったので、この一つの見方はとても参考になった。
蓮實批評の入門編として、とても面白い本だと思う。