誠実な研究を見習うべし

◆工藤庸子『ヨーロッパ文明批判序説』東京大学出版会
さすがに「読み」の達人だけあって、そのへんの凡庸なポストコロニアル研究とは雲泥の差がある。非常に抑制されたあるいは禁欲的なスタイルに好感を持つ。「ポストコロニアル、植民地批判」などと騒いで、ただ文学作品や作家を「差別的!」と批判だけをしている連中は、しっかりとこの本を読むべき。それから、「差別」だというなら批判するがいい。とまあ、こんなことを自分自身にも言い聞かせているわけなのですが。
タイトルには「序説」とあって、このボリュームで「序説」か、とは言いたくなる。「序説」と名づけられた本には、その大半は「本論」がちっとも書かれていない、いや書こうとさえされていないと、しばしば揶揄されることがある。
この本は、ぜひとも「本論」が読んでみたいものだ。実際、この本は「序説」と呼ぶのがふさわしいと思う。というのは、ちょっと批判的に言えば、「よくお勉強して書かれた本」という印象を受けてしまう。ただし、「お勉強」の中身は、とてつもなくレベルが高いけれども。
というのも、この論のほとんどはフランスを中心とした最近の研究を下敷きにしているからだ。だから、オリジナリティがない、価値がないということではなく、おそらくこうした作業は「本論」への準備作業となるはずなのだ。つまり、この「序説」をもとに、本格的な論がきっと書けるはずなのだ、と思う。だから、わたしはいつかこの本の続きが書かれることを願わざるを得ない。