小松和彦『妖怪文化入門』

小松和彦『妖怪文化入門』せりか書房、2006年3月
本書は、妖怪について書かれた文章を集めたものなので、内容的には『妖怪学新考』と重なる。その点では物足りない。しかし、これまでの妖怪研究の流れについて、小松和彦が要領よく整理してまとめているのは有益である。入門書として十分な役割を果たしていると言えよう。
妖怪研究は、たしかに面白いもので、現代のサブカルチャー研究にも資する。文学研究との接点を考えると、特に「物語」の役割が非常に重要。怪異は物語によって生まれ、物語によって解決される。物語は癒やしを与えることは、しばしば指摘されているが、たとえ小説というジャンルが衰退したとしても、物語はいつの時代になっても必要とされるのだろう。ただ物語のあり方の変化が重要で、近代以前では物語を共同体で共有することによって、不思議なもの、不浄なもの、などを浄化していたが、近代になり科学や医学などの進歩は、共同体の物語を「迷信」とした。
現代では、共同体で共通の「物語」を保持することが難しくなる一方で、個人の「物語」が求められている。「私」だけの「物語」を上手に語ってくれる人が、もてはやされている。

妖怪文化入門

妖怪文化入門