藤原和博編著『[よのなか]教科書国語 心に届く日本語』

藤原和博編著『[よのなか]教科書国語 心に届く日本語』新潮社、2003年1月
[よのなか]で使える国語の授業を、ということで作られた本書。中心となるのは、コミュニケーション能力である。従来の道徳的な国語の授業に変わって、[よのなか]を生き抜くのに必要なコミュニケーション能力をいかに身につけようとするのが本書の大きな特色である。
本書は、ビジネス書を学校教育用に手直ししたものだと思う。本書の中で、基本的に[よのなか]と呼ばれているものは、ビジネス社会のことなのだ。たしかに、多くの子どもたちは将来、企業に就職して働くことになるのだから、[よのなか]で生きる技術を身につけることは大切である。早くからビジネス作法を知っておくことは、生きる上できっと役に立つだろう。その点で、この「教科書」企画は意義がある。国語といえど、「使える」国語でなければならず、使えない国語など教えても子どもたちは納得しない――それが基本コンセプトなのだろう。
しかし、世の中がビジネス社会の価値観で支配されていくのは、なんとなく嫌な感じがする。たしかに、人前で自分の意見を言えることは大切である。そのために技術を伝えようとする本書の企画意図には反対ではない。ただ価値観が、ビジネス社会の価値観のみになっていく、そうした社会はどうなのかと疑問に思うのだ。
社会に生きるとは、何もビジネス社会で生きることだけではなくて、別の価値観で生きても良いはず。誰もがサラリーマンでなければ、上手に生きていけない社会というのも、それはそれで息苦しい。学者だと学者的な思考しかできないと同様に、企業出身だと結局は企業的な思考しかできなくなってしまう。こうしたタコツボ化を抜け出す方法はないのだろうか。

国語 心に届く日本語 ― [よのなか]教科書

国語 心に届く日本語 ― [よのなか]教科書